2012年4月12日木曜日

マイクロソフト研究 ビル・ゲイツ氏引退後、同社はどこへ向かっているのか : 小池良次 米国発、ITトレンド


− 第27回 −


ライブ移行における2つの課題

 もちろん、マイクロソフトはサービスを重要なテーマとして対応してきた。IBMとともにWebサービスの規格化で中心的な役割を果たしてきたし、『.NET(ドット・ネット)』を軸にOSからクライアント系やサーバ系アプリケーション、そして開発環境までサービスへの対応を整えてきた。しかし、様々な手を打ってきたにもかかわらず、まだ大きな成果をあげるまでにはいたっていない。しかも、サービスによってどのような世界がうまれ、マイクロソフトがどのようなビジネスを展開するかと言う基本的なビジョンは見つからなかった。これは筆者の想像だが、この根本的なビジョンあるいはそれにつながる道筋をオジー氏が示したからこそ、ゲイツ会長は後継者として彼を抜擢したのだろう。


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 では、このライブ移行は、どのように進んでゆくのだろうか。オジー氏の構想では、Windows LIVEという『サービス・プラットフォーム兼エクスペリエンス・ハブ』にすべての事業を結びつけ、マイクロソフトをインターネット・サービスのプラットフォーム会社に変身させる。そこには2つの課題がある。ひとつは、ソフト業界に広く受け入れられるサービスの設計原則(Architectural Principal)を確立すること。もうひとつは、コンテンツをベースにオンライン付加価値モデル(Online Value Delivery Model)を構築することだ。


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 第1の課題である設計原則(Architectural Principal)は、既存のマイクロソフト製品群をサービス環境に対応させる――従来の対応を踏襲する――ものだ。現在、分散アプリケーションの世界は『browser based application』を狙う動きが注目されている。たとえば、基幹アプリケーションの分野では、セールスフォース・ドット・コムがCRM(顧客管理ソフト)をブラウザ・ベースで提供し、中小企業の人気を集めている。また、収益に結びついていないがグーグルはGoogle Spreadsheetsを提供しているほか、2006年3月にWritely社を買収し、ブラウザ・ベースド・ワープロの公開準備を進めている。


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 これに対して、マイクロソフトは既存のソフト群を対応させる『on-premise Windows-based software』という立場を取っている。たとえば、Microsoft Office Liveはブラウザ・ベースで利用できるが、パッケージ版の代替ではなく、文書ファイルやスケジュール共有など、ウェブ上の共同作業環境を提供する補助的な位置にある。つまり、マイクロソフトはリッチ・クライアント(パッケージ・ソフト環境)と共存する設計原則をサービスの世界で広めたいと考えているわけだ。


 一方、ふたつめの課題であるオンライン付加価値モデルは、オジー氏がマイクロソフトに参画してから本格化した動きだ。現在、グーグルと競争しているWindows LIVEは、その中心的な役割を担っている。これはインターネット・サービスを使うツールの提供だけではなく、コンテンツそのものを提供する戦略だ。つまり、マイクロソフトはアプリケーションとコンテンツ・プロバイダーを兼ねる方向にある。そのためサーチ・エンジンとサーチ広告(Microsoft adCenter)およびMSNのコンテンツ(Live Experiences)拡充に、マイクロソフトは20億ドル(2007年度)という巨額の投資を準備している。

出典:マイクロソフト


 このようにマイクロソフトは、巨大化するインターネットに対して、プラットフォームとコンテンツの二面から対応を進めている。それはマイクロソフトが、パソコンから脱却し、ネットカンパニーにかわることでもある。しかし一歩誤れば、商業ネットワークの巨人アメリカ・オンライン(現AOL)が、刻々と変わるインターネットの世界に追従できずその存在感を失っていったように、マイクロソフトも厳しい状況に立たされる可能性もある。ゲイツ会長が乗り越えられなかったインターネット・サービスの世界を、果たしてオジー氏が達成できるのか。いよいよ『脱ビル・ゲイツ』へと同社は走り始めている。

(2006年9月4日公開)



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