2012年2月22日水曜日

方法と理由SPCが動作する

次世代TFTの本命 - FPD - Tech-On!

 今,TFT技術は熾烈な開発競争を迎えている。特に次世代有機ELディスプレイ用のTFT開発は,戦国時代と言ってもいいくらいの様相である。その理由は,現在有機ELで広く用いられている低温多結晶Si(LTPS)TFTは第4世代(G4)までしか量産装置が無く,今後パソコン用やテレビ用へのニーズに対応できないからである。一方,液晶ディスプレイで広く用いられているアモルファスSi(a-Si)TFTはしきい電圧(Vth)がシフトしてしまうため,電圧を電流に変換して駆動する有機EL用の画素にはそのままでは使えない。そこで,LTPSと同等の信頼性を持ち,大型基板に対応できる次世代TFTが渇望されているのである。

表1 有機ELディスプレイ駆動用TFTの比較

表中の◎○△×は,各技術の現在の完成度を著者が示したものであり,各技術のポテンシャルを示したものではない。

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 表1は,これまでに有機ELパネルの試作に採用された主なTFT技術を比較したものである。このうちLTPS,SPC,SGS,SLSなどは,本来は多結晶Siとしてまとめても良いのだが,製造方法によって特徴が大きく異なるため,この表では分けて示してある。また,酸化物TFTにも様々な素子があるが,ここでは実際パネルの試作に広く利用されているアモルファスInGaZnO(以下IGZOと略記)を代表例として挙げてある。なお,これ以外にも有機TFTで有機ELパネルを試作した例があるが,まだ量産を議論する段階にはないと思うので,この表からは外してある。

信頼性と量産実績で一歩リードする多結晶Si 〜課題は大型化

 多結晶Si系のTFTはいずれもコプレーナ型のセルフアライン構造なので,イオン注入装置が必要である。エキシマ・レーザー・アニール装置のビーム幅の拡大ほどではないが,イオン注入装置もガラス基板の大型化への対応は難しい。CMOS化は"システム・オン・パネル"を狙うのなら有利に働くが,有機EL用のバック・プレーン(TFT基板)として使うのならpチャネルだけで十分である。通常構造の有機ELデバイスは,共通カソード電極に対してTFT基板上のアノード電極から電流を流す形になるので,正電源がTFT基板の画素内に配置される。もちろんnチャネルでも構わないが,ソース電極を直接電源につなげるpチャネルの方が定電流動作させやすく,画素回路の設計が容易である。


リストを乱さないようにサインアップ

 画素の動作を考慮すれば,移動度は10cm2/Vsあれば十分である。走査回路や発光期間制御回路を内蔵する場合でも50cm2/Vsあれば余裕を持って設計できる。むしろ,高い移動度を目指すよりも面内の均一性を確保することの方がはるかに重要である。SPC,SGS,SLSはいずれもpチャネルが形成可能で,特性も信頼性も十分確保されている。問題は,均一性や再現性を含めた量産性が確保できるかどうかである。微結晶Siや酸化物にはまだ量産実績がないので,LTPSでの量産ノウハウを生かせるという点でも一日の長がある。セルフアライン構造なので画素回路が多少複雑でも開口率が高くできる事も長所である。ただし,将来的には液晶と同じ大型基板に対応できなければコスト競争力の確保は難しい。どこまで大型化できるかがカ� ��となるだろう。

a-Siの生産設備が転用できる微結晶Si 〜特性向上が必須

 微結晶Siはa-Siと同じ逆スタガ型構造で,プロセスもよく似ている。今から4〜5年前に微結晶Siは非常に注目を集めた。それはa-Siの生産設備が転用でき,特性が向上できる可能性があったからである。特に,レーザー・アニールを用いずにプラズマCVDの成膜条件の最適化だけで微結晶膜を形成するプロセスは,簡単に既存のラインをそのまま転用できるので非常に期待された。しかし実際には,微結晶化することで信頼性はある程度向上するものの,特性は期待したほど向上はしなかった。


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 レーザーを用いて微結晶化させる方法としては,ダイオード・レーザーのほかにもYAG 2ωなどの固体レーザーを用いた方法も研究されている。基本的には,a-Si TFTと同じ逆スタガ型でチャネル層を微結晶化という組み合わせゆえに,多結晶Siより大型化に有利である。レーザーに限らず何らかの方法(例えばプラズマや光でも可)で結晶化させ,高いスループットで移動度10cm2/Vs程度のTFTを大面積に再現性良く作成できる方法が確立されることを期待したい。

次世代の本命との期待がかかる酸化物TFT 〜量産化までは時間との戦い

 筆者は常々,優れたデバイスというのはどこで作っても同じ特性を出せるデバイスだと思っている。例えばa-Si TFTは大学で試作しても大体同じ特性を出せる。ところがレーザー・アニールを使う多結晶Si TFTの試作は非常に難しく,立派な装置を並べた試作ラインでも特性が再現しないことが多い。だからこそ,a-Si TFTはFPDの"標準TFT"として世界市場を席巻したのである。一方,酸化物TFTの代表であるIGZOは,研究が開始されてから間もないにもかかわらず,様々な研究機関でかなり良い特性が確保されている。その理由の一つは「アモルファス(非晶質)」だからであろう。わざわざ結晶化しなくてもアモルファスの状態で特性が確保できるデバイスはすばらしいと思う。


 しかし,まだIGZO TFTの量産化までにやらなければならないことがあまりにも多い。今後IGZOが実用化されるかどうかは,時間との戦いになるだろう。大型有機ELテレビに採用されるためには,本格量産ラインの投資計画が確定するまでに量産化のメドが立たなければならないが,その時間的余裕は意外と短いのかもしれない。特に韓国では,企業も大学もこぞってこの酸化物TFTを次世代TFTの最有力候補と位置づけており,開発にかける熱意には並々ならぬものがある。

 筆者が酸化物TFTに期待する理由はもう一つある。今のa-Si TFTを用いた液晶ディスプレイは,次世代2K×4Kの大型画面を120Hzや240Hzで駆動できない。移動度が足りないため,40Vで駆動しても書き込めないのである。さらに次の世代の「スーパーハイビジョン」までカバーすることを考えると,移動度10cm2/Vs程度が必要になる。次世代の超高精細化に対応するためには,液晶ディスプレイの分野でも今のa-Si TFTに替わる次世代TFTが必要なのである。つまり,IGZOを中心とした酸化物TFTは,有機EL用のバック・プレーンのみならず,液晶を含むすべてのFPDの"標準バック・プレーン"になる可能性も持っているのである。

韓国勢の次の投資に注目

 韓国のSamsung Mobile Display Co., Ltd.もLG Electronics Inc.も,近い将来,有機ELディスプレイでパソコン用やテレビ用の市場に参入するだろう。LGが2009年内に15型HD対応の有機ELテレビ(解像度は1366×768)を発売するとの報道もある。いずれにしても,次のラインの投資は近い将来決定される可能性が高い。まずは,その時どのTFTが採用されるかに注目したい。



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